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4_モデル契約書v1_0_ライセンス契約書(新素材編)_逐条解説あり.md

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モデル契約書ver1.0 ライセンス契約書(新素材)

想定シーン

  1. X社(樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップ)とY社(自動車部品メーカー)の共同研究開発は順調に進み、研究成果として、樹脂に対して本素材を特定量配合してなる透明性樹脂組成物、その成形体およびそれからなるライトカバーについて、共同研究契約に基づきX社単独名義で特許出願がなされた。
  2. また、本素材を用いた樹脂により形成されるヘッドライトカバーの量産化の目処もついたことから、X社からY社に対するライセンスの内容や事業化後の両社の権利関係を協議することとなった。
  3. また、共同研究開発の結果、Y社においては、当初想定していた製品(ポリカーボネート樹脂組成物からなるヘッドライトカバー。以下「当初製品」という。)以外の製品(アクリル系樹脂組成物からなるテールランプカバー。以下「応用製品」という。)にも研究成果を活用できると考えたため、Y社は、X社に対し、応用製品についても研究成果の利用許諾を得たいと考えるに至り、本ライセンス契約を締結することとした。
  4. ライセンスの条件の概要は以下のとおりである。
    1. バックグラウンド技術のライセンスは、共同研究開発契約において当初製品について定めたものと同様に、非独占的通常実施権により行うこと。
    2. 研究成果は汎用性が高く、X社の利用の自由度を確保しておくため、応用製品については、非独占的通常実施権を設定すること。
    3. X社は、本素材の技術力をブランディングするために取得した登録商標「XXX」を、ヘッドライトカバーとテールランプカバーのPRに使用してもらうことを希望し、Y社もこの点を了承していること。

目次

前文

 X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)とは、甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約に基づいて甲に単独帰属した特許権等の応用製品に関する実施許諾の条件等を定めるため、次のとおりライセンス契約(以下「本契約」という。)を締結する。

<ポイント>

  • 本モデル契約は、以下の各ライセンスをスタートアップから事業会社に対して行うための契約である。
    1. 研究開発着手時に想定していなかった製品(応用製品)に、研究成果ならびに共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた特許権を利用することについてのライセンス
    2. 本素材についてスタートアップが保有する技術をブランディングするために保有している商標権のライセンス
  • 前提理解のため、知財等と対象用途、規定する契約種別の整理を以下に示す。

対象知財等

本製品1
(当初製品、共同研究開発契約で対象としたヘッドライトカバー)
本製品2
(応用製品、本ライセンス契約で対象とするテールランプカバー)
共同研究開発にて、
各々が単独で開発・取得した知財等
使用しない 使用しない
共同研究開発の成果として
共同で発明された知財等

共同研究開発契約にて規定
(本モデル契約でも第2条で引用)

  • 年間は独占的通常実施権
  • ライセンス料:無償
  • など

本ライセンス契約にて規定

  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償
  • など
共同研究開発に着手する前に
スタートアップが保有していた知財等

共同研究開発契約にて規定
(本モデル契約でも第2条で引用)

  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償
  • など

本ライセンス契約にて規定

  • 上記と同条件
本商標

本ライセンス契約にて規定

  • 非独占的通常使用権
  • 無償

<解説>

  • 共同研究開発契約では、共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた特許権等(以下「本バックグラウンド特許権」という。)および研究成果にかかる発明に関して、研究開発時に想定していた製品(「ヘッドライトカバー」)の製造等についてライセンスする旨の条項を設けている。
  • 一方、共同研究開発終了後における、スタートアップの本バックグラウンド特許権や研究成果にかかる発明に関する、応用製品の製造等についてのライセンスは、共同研究開発の結果によってその要否および内容が異なるため、同契約書には規定されていない。
  • そこで、本モデル契約は、応用製品の製造等について、①バックグラウンド特許権および②研究成果に関するライセンスを行うものである。
  • 本モデル契約(ライセンス契約)においては、許諾条件(独占・非独占の別、許諾範囲、ライセンス料等)、技術情報の提供の有無、改良技術の取扱い等が交渉のポイントとなる。

1条(定義)

第1条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。

① 本製品1

  別紙製品目録1記載のヘッドライトカバーをいう。

② 本製品2

  別紙製品目録2記載のテールランプカバーをいう。

③ 本製品

  本製品1および本製品2を総称したものをいう。

④ 本特許権

  甲が有する別紙「知的財産目録」記載の特許権または特許出願をいい、これには甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約第2条第3号に定める本発明の全部または一部に基づく特許権または特許出願が含まれる。

⑤ 本バックグラウンド特許権

  甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約第2条第1号に定めるバックグラウンド情報(以下「バックグラウンド情報」という。)の全部または一部に基づき取得された、甲が有する別紙「知的財産目録」記載の特許権または特許出願をいう。

⑥ 本商標

  甲が有する別紙「知的財産目録」記載の各商標(商標出願および商標登録の有無を問わないものとする。)をいう。

⑦ 本特許権等

  本特許権、本バックグラウンド特許権および本商標に係る商標権をいう。

⑧ 本地域

  全世界をいう。

⑨ 改良技術

  特許を受けられるか否かに拘わらず、本製品または本製品の製造もしくは使用方法に関するすべての改良、修正および変更をいう。

⑩ 関連会社

  別紙関連会社目録に記載の会社をいう。

<ポイント>

  • 本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。

<解説>

本製品の定義

  • 「本製品」の定義によって、権利許諾の範囲が確定することとなるため、記載の仕方には注意が必要である。ここでは「本製品1」が共同研究開発の際に想定していた当初製品、「本製品2」が応用製品を指している。
  • 本製品の定義を、「自動車用の樹脂により形成されるヘッドライトカバー」または「自動車用テールランプカバー」とだけ記載した場合、本特許権を実施しない製品についてもライセンス対象製品に含まれ、ライセンス料の計算に算入されてしまう。
  • 一方、「本特許権を実施する自動車用の樹脂により形成されるヘッドライトカバー」等と「本特許権を実施する」という要件も含めて定義した場合、スタートアップは、本製品2に本特許権にかかる特許発明が実施されていることを確認できない限り、本来ライセンス対象となるべき製品の売上等をライセンス料の計算に算入できない。
  • そこで、本モデル契約においては、ライセンスを受ける製品を別紙製品目録において定めることとした。同目録においては、製品名や製品番号等で対象製品を特定することが考えられる。

特許権の定義

  • 「本特許権」には、共同研究成果にかかる特許出願または特許権、「本バックグラウンド特許権」には、共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた特許権等が含まれるよう、これらを別紙「知的財産目録」に記載する必要がある。
  • このように「本特許権」と「本バックグラウンド特許権」を分けて定義するのは、本製品1において、「本特許権」については共同研究契約に基づく独占的実施許諾が、「本バックグラウンド特許権」については本モデル契約に基づく非独占的実施許諾がなされており、さらに実施許諾地域も異なるなど、実施許諾条件が異なるためである。

本地域の定義

  • 「本地域」の定義は、権利許諾の範囲を定めるものである。本条では全世界としているが、特許権は国ごとに発生するものであり、当該発生国においてのみ特許権としての効力を有するので、対象国を列挙することもある(属地主義)。
  • 本地域の範囲について、スタートアップが特許権を保有する範囲とすることも考えられる。

【追加オプション条項 ー 技術情報】

⑪「本技術情報」

 本特許権にかかる特許発明を実施するにあたって必要となる設計図・仕様書・図表などの資料および技術情報をいう。

<解説>

  • 特許のライセンスのみでは事業会社が本製品の製造ができない場合は、技術情報やノウハウ等も合わせてライセンスすることも考えられる。
  • その場合は、技術情報を定義するが、スタートアップとしては、上記の定義を採用した場合には、自社がブラックボックス化しているノウハウ等の開示と利用許諾を行う義務を負うことになるため、ノウハウの開示が不必要なケースにおいて不用意にノウハウを含んだ技術情報のライセンスに応じるべきではない。

【コラム】本製品が事後的に改良された場合の扱い

  • 上記のようにライセンスの対象となる製品(本製品)を別紙等で詳細に特定することは通常行われる実務であるが、本製品が将来改良されて、別紙による特定から逸脱することが想定される。
  • このような事態を防止するために、別紙による本製品の特定について、ある程度上位概念的に記載するという方法と、「本製品」をある程度詳細に特定した上で、定義規定にライセンスの対象製品として、「本製品(基本的な設計思想を同一にする改良品を含む。)」というような表現にする、という方法がある。
  • いずれにせよ、ライセンス契約を起案する際には、製品には常に改良が伴いうるということを念頭に、ライセンス対象を特定する必要がある。
  • 知的財産目録についても同様の問題がある。すなわち、後に一方当事者が単独で取得した特許権についても、ライセンス範囲とするのかという論点である。
  • 本製品の改良を前提としない場合、かかる論点は生じにくいが、そうでない場合は上記と併せて考える必要がある。

2条(権利の許諾)

第2条 甲および乙は、本製品1の製造・販売のための本特許権の通常実施権が、甲乙間で締結した●年●月●日付共同研究開発契約第7条1項および第7項に記載の条件で設定されていることを確認する。

2 甲および乙は、本製品1の製造・販売のための本バックグラウンド特許権の非独占的通常実施権が、甲乙間で締結した●年●月●日付共同研究開発契約第7条第2項に記載の条件(ただし、ライセンス期間は本条第6項の定めが優先するものとする。)で設定されていることを確認する。

3 甲は、乙に対し、本地域内において、本製品2の設計、製造・販売のために、本特許権および本バックグラウンド特許権の非独占的通常実施権を許諾する。本特許権および本バックグラウンド特許権の対価は4条で定める。

4 乙は、前項所定の許諾地域外であっても、本製品2を輸出することができる。

5 乙は本製品に本商標を付すように努めるものとし、当該使用の限りにおいて、甲は、乙に対し、本商標の非独占的通常使用権を無償で付与する。

6 本条に定める実施権および使用権の許諾期間は、本契約の期間中または各権利の存続期間満了までのいずれか早いほうとする。

7 乙は、甲が、本特許権または本バックグラウンド特許権(日本の特許権および日本の特許法第127条に相当する特許法がある外国の特許権を対象とする。)に関し、無効理由を解消させる目的で訂正審判請求または無効審判手続における訂正請求を行う場合(以下「訂正等」という。)、甲が訂正等をすることを予め承諾する。

<ポイント>

  • スタートアップから事業会社に対する本特許権、本バックグラウンド特許権および本商標にかかる商標権のライセンスについて定めたものである。

<解説>

特許権の整理

  • ①対象製品(本製品1【当初製品】か本製品2【応用製品】)か)および②共同研究開発により創出された特許権(本特許権)の許諾か本バックグラウンド特許権の許諾か、を記載する必要がある。これを整理したのが以下の表である。
本製品1 本製品2
共同研究開発の成果として共同で発明された知財等

本モデル契約第2条1項および共同研究開発契約第7条第7項に規定

  • ライセンス対象:本製品1の設計・製造・販売
  • ●年間は独占的通常実施権、その後は非独占的通常実施権
  • ライセンス料:無償
  • 地理的範囲:全世界
  • ライセンス期間:本モデル契約の期間中または各権利の存続期間満了までのいずれか早いほう

本モデル契約第2条3項、4条に規定

  • ライセンス対象:本製品2の設計・製造・販売
  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償
  • 地理的範囲:本地域(全世界)
  • ライセンス期間:本モデル契約の期間中または各権利の存続期間のいずれか早いほう
共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた知財等

本モデル契約第2条2項および共同研究開発契約第7条2項に規定

  • ライセンス対象:本製品1の設計・製造・販売
  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償(ライセンス期間中に事業会社の販売するすべての本製品1の正味販売価格の●%(外税))
  • 地理的範囲:全世界
  • ライセンス期間:●年

本モデル契約第2条3項、4条に規定

  • 上記と同条件
本商標

本ライセンス契約にて規定

  • 非独占的通常使用権
  • 無償
  • なお、本条では取り扱っていないものの、共同研究開発においてスタートアップまたは事業会社の単独発明が生じた場合には、共同研究開発契約7条1項に基づき、単独発明にかかる特許権等の知的財産権のライセンスの有無および条件を別途協議の上定めることとなる。
  • ライセンスの条件については、同発明の重要性や本製品との関係性を考慮しながら、独占的ライセンスにするか否か、有償にするか否か、有償にする場合にいかなる算定式でライセンス料を算定するか等を決定する必要がある。

ライセンスの範囲

  • ライセンサー(実施許諾者)は、ライセンシー(実施権者)による想定外の実施を防ぐため、ライセンス(許諾)の範囲を限定的に定める必要がある。本条ではライセンスの対象を製品で限定している。
  • 特に、スタートアップは、自社の競争優位性を保つ上で、特許1件あたりの重要性が事業会社のそれに比して高いことが多いから、ライセンスの対象を過度に広く設定しないよう留意すべきである。
  • 逆に、事業会社は、真に自社事業に必要な範囲にライセンス対象を留めるよう配慮することが、スタートアップとの中長期的な関係を築くために重要である。オープンイノベーションを通じて自社の事業を継続的に強化していくための秘訣のひとつであるといえよう。

専用実施権

  • 本条では、1条⑧号所定の本地域内において、本製品2の製造販売に関する非独占的通常実施権を許諾している。専用実施権(特許法77条)が提案されることもあるが、専用実施権を設定する場合、契約で別段の定めがなければ、特許権者であるスタートアップ自身も実施ができない(通常実施権の場合は、スタートアップ自身も実施ができる。)。
  • 事業会社にとって専用実施権を提案する最大のメリットは、事業会社自ら差止請求権を有する、ということである。反面、差止請求権を行使した場合に抗弁的な法的措置として一般的な特許無効審判は、ライセンサー(スタートアップ)自らが対応しなければならない点には留意が必要である。
  • したがって、スタートアップとしては、専用実施権の設定は慎重に判断すべきである。
  • なお、専用実施権制度はグローバルには普遍性を有する制度ではないので、この点も留意する必要がある。

商標等の許諾

  • 本条では、スタートアップが保有する特許および技術のブランド化の観点から、同技術等に関する商標権をスタートアップが保有していることを前提に、事業会社に対して同商標権の使用許諾を行なっている。
  • スタートアップとしては、コアとなる技術のブランディングの観点から、当該技術の名称等につき商標登録を行い、商標権を取得することも検討すべきである。
  • なお、本件の場合、スタートアップは事業会社に本商標を使用させるということを超えて、より積極的に、ブランディングの観点から本商標を事業会社に使用させたいという意向があることを前提として、事業会社に対して、本製品に本商標を付する努力義務を課している。
  • 商標の使用許諾までは行わない、類似のブランディング方法としては、製品の説明書やウエブサイトに「この製品は○○社のα技術を採用しております。」「この製品は○○社と共同して開発した成果を利用しております。」との記述をしてもらうことである。このような記述がブランディングのみならず、資金調達等に及ぼすプラスの影響は計り知れない。

訂正審判等の承諾

  • 本条7項は、訂正審判等に関する事前承諾を定めたものである。
  • 特許法127条は、「特許権者は、専用実施権者、質権者または・・・通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。」と定めている。
  • そのため、訂正審判等の必要性を考え、上記条項を設けている。

【コラム】独占的な実施権

  • 独占的な実施権は、第三者に対する参入障壁となるので、実施権者に対して、いわば「商圏を与える」という趣旨を持つ。
  • 手元資金の厚さが企業存続に影響を及ぼすスタートアップは、時として、特許の実施許諾と引き換えに一時金の獲得を目指すことがあるが、そのような場合には独占的な実施権の付与を前提に、「年間△△万円のリターンが得られる商圏を獲得するために一時金○○万円を支払う、設備投資のようなものですよ。独占期間内の●年間で十分に回収可能です。」という提案をしていくことになる。

3条(禁止事項)

第3条 乙は、甲の書面による事前の承諾を得た場合を除き、以下の各号に掲げる行為をしてはならないものとする。

① 第三者(乙の子会社または関連会社を除く)に前条に定める実施権および使用権を再許諾すること。

② 本契約に基づく権利を一部または全部を問わず第三者に譲渡、移転、担保設定、リース、貸与または共有等すること。

<ポイント>

  • ライセンシーの禁止事項を定める条項である。

<解説>

  • 本件では、事業会社が自ら製造を行うことを想定していることから、事業会社による第三者へのサブライセンスを禁止している(本条1号)。
  • ただし、ライセンシーは自社の子会社や関連会社で製造販売を行うことも考えられるため、これらを第三者の範囲から除いている。
  • しかし、「関連会社」の定義はあいまいであるため、「関連会社」という文言を使用するときは、これを定義規定や別紙等で特定する必要がある(本モデル契約においては別紙で特定する形式にしている(第1条第10号)。
  • なお、子会社または関連会社以外にサブライセンスの必要があることが契約締結までに判明している場合は、別紙等で当該サブライセンス先を特定した上で、サブライセンスを許可することもありえよう。
  • 本条2号は、許諾された権利の譲渡、移転、担保設定等を禁止する一般的規定である。

4条(本製品2に関するライセンス料)

第4条 乙は、甲に対し、本製品2に関する本特許権および本バックグラウンド特許権に係る発明の実施許諾の対価(以下「ライセンス料」という。)として、以下の支払いを行う。

 ① 本契約締結日から1ヶ月以内に金●円(外税)

 ② 本契約の期間中に乙の販売するすべての本製品2の正味販売価格の
●%(以下「ランニングロイヤルティ」という。)

2 乙は、甲に対し、ランニングロイヤルティの計算のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の販売状況(販売個数・単価、その他ランニングロイヤルティの計算に必要な情報を含む)を\[●から●日以内に\]書面で報告するとともに、当該ランニングロイヤルティを当該期間の末日から●日以内に支払うものとする。

3 乙は前項のライセンス料を甲が指定する銀行口座振込送金の方法により支払う。これにかかる振込手数料は乙が負担するものとする。

4 本条で定めるライセンス料についての消費税は外税とする。

5 本条のライセンス料の遅延損害金は年14.6%とする。

<ポイント>

  • 本モデル契約におけるライセンス(本製品2についての本特許権および本バックグラウンド特許権の非独占ライセンス)の対価としてのライセンス料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。
  • ライセンス料(率)を決定するためには、スタートアップが提供する特許等の希少性や重要性、本製品の市場規模、販売価格や製品寿命、あるいは本製品の付加価値における当該特許等の貢献度など、個別のケースに応じた幅広な検討が必要である。
  • また、上記条項では、ランニングロイヤルティの算定を本製品2の正味販売価格(総販売価格から運賃や保険料および梱包費などの経費を控除した販売価格)に基づき行っているが、販売価格を基準にすることもありうる。

<解説>

ライセンス料設定の考え方

  • ライセンス料については、①ライセンス契約締結時にまとまった額を支払い(イニシャルフィー)、②その後は実施量に応じて定期的に支払う(ランニングロイヤルティ)のが一般的である。
  • 交渉においては、イニシャルフィーとランニングロイヤルティの料率がトレードオフの関係になることがある。その際、ランニングロイヤルティに重きをおいてハイリスクハイリターンを狙うか、イニシャルフィーに重きを置いて足元のキャッシュフローを固めるか、という判断が必要になる。

ランニングロイヤルティ :ライセンス対象製品の製造販売量が少なければライセンス料が少なくなるが、製造販売量が多ければライセンス料が多くなる。 イニシャルフィー :ライセンス対象製品の製造販売量に関わらず、契約締結時点で一定のまとまった額が入ることとなる。

  • 本件では独占的通常実施権を設定していないが、独占的通常実施権を設定する場合においては、他社へライセンスできないことに対する補償として、対象製品の製造販売の数量に関わらず、一定のライセンス料を最低額として(ミニマムギャランティとして)設定した上でランニングロイヤルティを設定することもありうる。
  • ランニングロイヤルティは、年度ごとや、半期ごとの報告・支払いを義務付けるものが多いといえるが、四半期ごと、毎月というものも存在する。
  • ランニングロイヤルティを規定する場合、その支払い金額を裏付ける報告義務を課すことが通常である。当該報告義務の対象は、ランニングロイヤルティを計算するに必要最小限の範囲を定めることが原則となる。
  • 逆に言うと、「ライセンス料の計算基準=報告監査可能」という公式を満たすように、ライセンス料の計算基準を決めることがセオリーとなる。

5条(監査)

第5条 甲は、乙に対して、報告されたライセンス料に関連する製品の売掛台帳、決算書、その他の経理書類・帳簿類を開示すべきことを請求することができる。

2 甲は、乙に対して、報告されたライセンス料に関して、公認会計士その他中立な第三者による監査を請求することができる。

3 前項の費用は甲が負担する。ただし、監査の結果、乙の報告したライセンス料額が支払うべきライセンス料額よりも10%以上少なかった場合、甲は乙に対してその費用を求償することができる。

4 甲は、本契約の各条項が遵守されているか否かを調査するため、乙に対し、いつでも本商標を使用する乙の商品およびその包装、その商品に関する広告、カタログ等の提出を要求し、これを自ら検査することができる。

<ポイント>

  • 第4条のライセンス料の計算が正しいことを確認するための監査の方法を定めた規定である。

<解説>

  • 監査の費用については、原則はライセンサー(実施許諾者)が負担することを原則としつつも、監査の結果、不正が発生した場合はライセンシー(実施権者)が負担することとしている。ただし、不正の定義で争いが生じることもあるため、ライセンス料の10%以内の誤差は除くものとしている。
  • スタートアップがライセンサーの場合、監査費用の負担が困難なケースも少なくなく、監査請求が実質的な解決策にならない場合もある。そのため、報告されたライセンス料が正しいことについて、一定の手数料をスタートアップが負担することで、事業会社名義の意見書の提出を求めることができるようにする等、異なる監督手段を設けることも考えられる。
  • ランニングロイヤリティの支払いが適正でなかった場合には、未払い分につき遅延損害金年利14.6%が発生することとなり(本モデル契約4条5項)、これが実質的なペナルティとなっている。

6条(ライセンス料の不返還)

第6条 乙は、本契約に基づき甲に対して支払ったライセンス料に関し、計算の過誤による過払いを除き、本特許権等の無効審決が確定した場合(出願中のものについては拒絶査定または拒絶審決が確定した場合)を含むいかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後30日以内に書面により行うものとし、その後は理由の如何を問わず請求できない。

<ポイント>

  • 支払われたライセンス料についての不返還を定めた条項である。

<解説>

  • 支払済みの対価の返還については、出願中の特許に拒絶査定が出て特許が成立しない、対象となる特許が無効審判により無効にされてしまった場合などに問題が生じやすい。
  • 本条を認める代わりに、以下のオプション条項のとおり、特許登録前後でライセンス料率に差を設けるということも考えられる。オプション条項では出願中の特許が1つであることを前提としている。出願中の特許が複数ある場合は、そのうちの一部のみが特許として登録される可能性がある点に留意されたい。

【第4条1項変更オプション – 未登録特許のロイヤルティ】

第4条 乙は、甲に対し、本特許権および本バックグラウンド特許権に係る発明の実施許諾の対価(以下「ライセンス料」という。)として、以下の支払いを行う。

 ① 本契約締結日から1ヶ月以内に金●円(外税)

 ② 本契約の期間中に乙の販売するすべての本製品2の正味販売価格について以下の料率(以下「ランニングロイヤルティ」という。)

-   \[出願中の特許\]が特許として登録されるまでに乙が販売した本製品2については、本製品2の正味販売価格の●%

-   \[出願中の特許\]の特許登録後に乙が販売した本製品2については、本製品2の正味販売価格の●%

7条(改良技術)

第7条 甲は乙に対し、自己の裁量で、本契約期間中に、本特許権または本バックグラウンド特許権にかかる発明に改良、改善等をした場合(本製品に関する改良技術を開発した場合を含むが、これに限られないものとする)、その事実を通知し、さらに、乙の書面による要請があるときは、当該改良技術を乙に開示する。乙は、本契約第2条に規定される条件に準じて、本地域において、かかる改良技術に基づき本製品を製造、販売する非独占的権利を有する。

2 甲が当該改良技術につき特許を取得した場合、乙は、本契約に規定される
条件に従い、本地域において、当該特許にかかる発明を無償で実施する非独占的権利を有する。

3 乙は、本契約期間中に乙により開発されたすべての改良技術を、開発後直ちに甲に開示し、当該改良技術につき、当該改良技術に基づき本製品を製造、使用および販売する無期限、地域無限定、無償かつ非独占的な実施権を、再許諾可能な権利と共に、甲に許諾する。

4 乙が、いずれかの国において当該改良技術の特許出願または実用新案出願を申請することを希望する場合、乙は甲に対し、かかる出願前に出願内容の詳細を開示するものとする。

<ポイント>

  • 当事者が、ライセンス対象の特許を基本特許として、応用・改良技術を開発した場合の取り扱いを定めた規定である。これを整理したのが以下の表である。
ライセンサー(スタートアップ)による改良
  • 通知義務なし、事業会社が要求した場合は開示義務あり
  • 事業会社に非独占的権利を許諾、無償
ライセンシー(事業会社)による改良
  • 通知義務あり、開示義務あり
  • スタートアップに非独占的権利を許諾、無償
外国出願の取り扱い
  • ライセンシー(事業会社)が特定の国への出願を希望した場合、ライセンサー(スタートアップ)に対し、事前に出願内容を開示
  • このように例えば、ライセンシーによる改良技術の取り扱いについて定めていなかった場合、数年後、ライセンシーが基本特許の周辺に100件を超える応用・改良特許を出願し、これら改良特許のライセンスとのクロスライセンスを提案してくるということもあるため、改良技術の取り扱いを定めておくことは重要である。
  • 共同研究開発契約7条12項でも改良技術の取り決めがなされているが、同条項のみでは、共同研究開発契約の契約期間満了後に改良結果が生じた場合に対応できなくなるため、ライセンス契約において改めて改良技術が生じた場合の取り決めを定めておく必要がある。

<解説>

ライセンサーの改良技術

  • 1項および2項は、ライセンサー(スタートアップ)が改良技術を開発した場合の規定である。本項では、ライセンサーに改良技術の通知の裁量を与えつつ、ライセンシー(事業会社)が要請した場合には、本製品の製造販売についての非独占的権利が許諾されるとしている。
  • 2項では、改良技術のライセンスについて特段追加のライセンス料を必要としないこととしているが、追加のライセンス料その他の条件の見直しについて定めることも考えられる。
  • なお、改良発明に関する事業会社による国外での出願について、スタートアップに対し、当該出願(または登録後の権利)の買取の優先交渉権を与えることも考えられる。

【追加オプション条項 ― ライセンス料等の見直し】

3 前2項の場合、甲乙は第4条に定めるライセンス料その他の条件の変更について協議を行うものとする。

<ポイント>

  • 本オプション条項を追加する場合、第2項の次に配置することになる。

ライセンシーの改良技術

  • 3項以下は、ライセンシー(事業会社)が改良技術を開発した場合の規定である。
  • ライセンシーには、改良技術の通知義務を課すとともに、ライセンサーに対し、非独占的権利を無償で許諾することとしている。また、ライセンシーの改良技術の特許出願については、事前にライセンサーに対し出願内容の詳細を開示するとともに、当該特許の買い取りに関する優先交渉権を与えることとしている。

8条(本商標)

第8条 乙は、第2条第5項の規定に基づき本商標を使用する場合、商標法その他関連法規の規定を遵守するとともに、本商標の機能を損ない、権利の喪失を招くことのないように努めなければならない。

2 乙は、甲の事前の同意なしに、以下の各号に定める行為を行ってはならない。ただし、甲乙間で協議の上、本契約に基づき使用可能な本商標に類する商標を定めた場合は、当該商標を本製品に使用することができるものとする。

(1)本商標を本製品に類似する商品に使用する行為

(2)本商標に類似する商標を本製品に使用する行為

(3)本商標に類似する商標を本製品に類似する商品に使用する行為

3 乙は、本商標の使用に際し、その商品の品質の低下等により、本商標にすでに化体されている業務上の信用を失墜させるような行為をしてはならない。

<ポイント>

  • ライセンサーが保有技術についての商標を有する場合に、この商標の使用方法について定めた規定である。
  • 商標法53条は、「専用使用権者または通常使用権者が指定商品もしくは指定役務またはこれらに類似する商品もしくは役務についての登録商標またはこれに類似する商標の使用であって商品の品質もしくは役務の質の誤認または他人の業務に係る商品もしくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と定めているため、本商標の登録の取消事由が発生することを防止するべく、2項の規定が設けられている。
  • また、本商標のブランド価値の棄損を防止するべく、3項では、商標の信用失墜行為を禁止している。

9条(第三者の権利侵害に関する担保責任)

第9条 甲は、乙に対し、本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売が第三者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証しない。

2 本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。

3 乙は、本特許権等が第三者に侵害されていることを発見した場合、当該侵害の事実を甲に対して通知するものとする。

<ポイント>

  • ライセンス対象となる特許権等の非保証を定めた規定である。
  • 1項の特許非保証を前提として、2項は、ライセンシーが第三者から訴訟提起された場合のライセンサーの協力義務を定めたものである。

<解説>

  • ライセンスの対象となる特許等については、第三者の権利侵害がないことを保証する(いわゆる「特許保証」)のが当然だという考え方になりがちである。
  • しかし、特許保証を行うことは、下記コラムに記載のとおり、ライセンサーのリスクが非常に高い。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、特許保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、特許保証をするにしても、「甲が知る限り権利侵害はない」「甲は権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。

【コラム】 特許保証をするとライセンサー(特許権者)のリスクが高い理由

  • 特許紛争が生じた場合、特許保証を前提とすると、理屈上、ライセンサーは必ず損をする(少なくとも得はしない)。
  • 今、スタートアップが事業会社に対して特許ライセンスをして、事業会社が本製品を1億円売り上げたとする。この場合、スタートアップが得るロイヤルティは、ライセンス料率3%とすると300万円である。他方、事業会社に対して、第三者がその保有する特許に基づいて特許侵害を主張した場合、当該1億円の売り上げに対する損害額は、
    1. ライセンス料相当額(特許法102条3項参照)で計算して300万円、
    2. 得べかりし利益(同2項)で計算して限界利益率を10%と仮定すると1000万円、ということになる。
  • 特許保証とは、これらの損害額についてライセンサーが保証すべきというものなので、ライセンサーはライセンス料として300万円獲得し、特許保証で300万円または1000万円を支払うという計算になるから、理屈上得はしない。

10条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)

第10条 甲および乙は、本契約の遂行のため、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法ならびに媒体を問わず、また、本契約の締結前後に関わらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータならびに素材、機器およびその他有体物、(別紙●●列挙のものおよびバックグラウンド情報を含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または漏えいしてはならないものとする。

2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。

1.   開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの

2.   開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの

3.   正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等提供されたもの

4.   開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの

5.   開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、又は創出したもの

3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本契約の遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本契約遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。

4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。

5 受領者は、秘密情報等を、本契約の遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。

6 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができるものとする。

① 法令の定めに基づき開示等すべき場合

② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った開示等の要求がある場合

③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合

7 本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。

8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。

9 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案、およびその他の連絡事項の全てに取って代わる。

10 本条の規定は、本契約が終了した日よりさらに5年間有効に存続するものとする。

<ポイント>

  • 相手から提供を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。

<解説>

従前に締結した秘密保持条項との関係整理

  • 秘密保持契約、PoC契約や共同研究開発契約に引き続いてライセンス契約を締結する場合、ライセンス契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項とライセンス契約における秘密保持条項の関係が問題となる。
  • ライセンス契約において秘密保持条項を設けずに前者が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においてはライセンス契約内の秘密保持条項が、すでに締結されている秘密保持条項を上書きすることを9項で明記している。
  • なお、既存の秘密保持条項およびライセンス契約の秘密保持条項の内容次第では、既存の秘密保持条項よりも、ライセンス契約の秘密保持レベルが落ちる可能性があるため、その点に留意した上で優先関係を定めることが望ましいであろう。

秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否)

  • 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、技術情報提供のために各種の情報、データ、素材等がやりとりされることがあるライセンス段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクを避けるため、前者を採用している。
  • 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。
  • なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらも参考にされたい。

11条(期間)

第11条 本契約の有効期限は本契約締結日から●年間とする。本契約は、当初期間や更新期間の満了する60日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由に基づき更新しない旨を書面で通知しない限り、1年間の更新期間(以下、それぞれ「更新期間」という。)で、同条件で自動的に更新されるものとする。

<ポイント>

  • 契約の有効期間を定めた一般的条項である。

<解説>

  • ライセンシーの場合は、契約期間を「対象となる全ての特許が満了等により消滅するまで」と規定し、更新時の再交渉を避けるというのがセオリーである。
  • もっとも、ライセンシーは特許権に係る発明を実施するために相当程度の額をかけて設備投資をすることとなるため、合理的な理由なくして一定期間(●年間)でライセンスを含めた本モデル契約の有効期間が満了してしまうことは大きなリスクとなる。そこで、本条においては、契約期間を●年としつつ、更新拒絶がない限り自動更新することとし、合理的な理由なくして更新拒絶できないこととした。

12条(解除)

第12条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

1.   本契約の条項について重大な違反を犯した場合

2.   支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合

3.   手形交換所の取引停止処分を受けた場合

4.   本特許権または本バックグラウンド特許権の有効性を争った場合

5.   その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合

2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。

<ポイント>

  • 契約解除に関する一般的規定である。
  • 4号においては、ライセンス対象となっている本特許権および本バックグラウンド特許権の有効性を争った場合には、契約を解除できることとしている(いわゆる不争条項)。

<解説>

  • 以下のように、いわゆるチェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&Aが解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。
  • したがって、スタートアップとしては、解除事由にCOCが含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。

【解除事由としてのCOC条項の例】

他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合

13条(契約終了後の措置)

第13条 乙は、本契約が前条に基づく甲の解除により終了した場合は直ちに、期間満了または合意解除により終了した場合はその終了後3か月以降、以下の義務を負う。

① 本製品を販売し、またはその注文を受けてはならない。

② 甲の指示により、本製品の在庫、見本・カタログを含む広告・宣伝材料等を甲に引き渡し、または破棄する。

<ポイント>

  • 本条は、契約終了時のライセンシーの義務を定めたものである。

<解説>

  • 本条では、製品の販売等の禁止とともに、製品在庫その他の商材の引き渡し、破棄義務を定めている。

14条(損害賠償)

第14条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の停止または予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。

<ポイント>

 契約違反が生じた場合に違反行為の停止等および損害賠償請求ができることを規定している条項である。

<解説>

  • 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間は、ライセンスの内容やコストの負担、ライセンス料の額等を考慮して当事者間の合意により決められる。
  • 本モデル契約は、迅速な被害回復が必要とされる知的財産権に関する契約であることから、本条では、損害賠償だけでなく違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。

15条(存続条項)

第15条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第6条(ライセンス料の不返還)、第9条(第三者の権利侵害に関する担保責任)、第10条(秘密保持、データおよび素材等の取扱い)、第13条(契約終了後の措置)ないし第17条(協議解決)の定めは有効に存続する。

<ポイント>

  • 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。

16条(準拠法および紛争解決手続き)

第16条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

<ポイント>

  • 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。

<解説>

  • クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。
  • 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。

【変更オプション1 ― 知財調停】

第16条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。

2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

3 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争(裁判所の知財調停手続きを含む)については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

<解説>

  • 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。
  • 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。
  • 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。
  • 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。
  • 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。
  • また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。

【変更オプション2 - 仲裁条項例】

本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。

<ポイント>

  • 紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。

<解説>

  • 仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。

17条(協議解決)

第17条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議の上解決する。

<ポイント>

  • 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。

別紙製品目録1

別紙製品目録2

別紙

知的財産権目録

1 特許権

番号 出願番号 公開番号 登録番号 発明(考案)名称 存続期間満了日

2 商標権

① 国内商標権

番号 登録番号 商標 商標の区分 存続期間満了日

② 外国商標権

番号 登録番号 商標 商標の区分 存続期間満了日

その他のオプション条項

本技術情報

第●条 甲は、本契約締結後●日以内に、本技術情報を文書または電子媒体にて乙に開示するものとする。

2 乙は、本技術情報を受領したときは、速やかにその内容を確認しなければならない。乙が受領後●日以内に異議を述べない場合は、甲の本技術情報提供義務は履行されたものとみなす。

3 乙が、甲に対して、本製品の製造方法の助言と指導を書面により要請した場合は、甲乙は有償による当該技術指導に関する契約の締結について協議する。

4 乙は、甲から乙に対する本技術情報の開示が、現状有姿のものであることに合意し、甲は乙が本技術情報を実施することから生じたいかなる責任または損害(第三者の財産・身体・生命その他の権利の侵害、または、乙による得べかりし利益の補填も含む。)についてこれを負担せず、乙はこれらの責任、損害について甲を免責することに同意する。

5 前項の免責規定については、乙が本技術情報を実施することによって、第三者の知的財産権を侵害した場合、および、そこから生じる損害についても同様とする。

<ポイント>

  • 特許のライセンスにおいては、ライセンサーからライセンシーに対して技術ノウハウの提供も行うことがある。本条は、かかる技術ノウハウの提供に関して定めた条項となる。

<解説>

  • 技術情報の範囲については、本条では1条⑪号所定の「本技術情報」としつつ、一定期間以内に異議を述べない場合、提供義務は履行されたものとみなすとしている。
  • これに対し、本技術情報の範囲に争いがでないように、1条⑪号の定義を修正し別紙記載のものとして特定するという方法もある。
  • また、技術情報の提供方式は、「文書または電子媒体」とし、技術指導は含まれていない。技術指導が必要な場合は以下のような条項を追加することが考えられる。
  • 本条4項および5項は、ライセンサーの技術情報についての免責規定である。
  • これに対し、ライセンサーの技術ノウハウについては、第三者の権利侵害がないことを保証するのが当然だという考え方がある。しかし、9条の解説で述べたのと同様に、特許や技術ノウハウについて権利非侵害の保証を行うことは、ライセンサー側のリスクが非常に高く、オープンイノベーションの阻害要因となりかねない。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、かかる保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。

【追加オプション – 技術指導】

第●条 甲もしくはその従業員は、乙の指定する場所に出向いて、本技術情報について指導を行う。当該指導は、甲がその所属する●名程度の技術者を●日程度派遣することにより行い、乙は、それに要する交通費、宿泊費、および、別途定める日当を支払うものとする。
  • 技術情報の提供後も、ライセンシーとしてはライセンサーからの助言や指導が必要なことも多い。その場合、技術情報の提供とは別に技術コンサルティング契約を締結する場合がある。本条3項はこの点について定めている。